ニュージーランド縦断サイクリング1975.12-'76.1

「行った、銀輪走(走った)、見た、知った」……そして残った/サイクリングで駆け巡った彼との45年間

[28]ホキチカとロスの間 ⇒ ロス ⇒ ハリハリ

 

12月24日(水) 雨

午前4時半。

テントの天井から落ちてくる水滴で目を覚ます。

 

この国の天気の変化が激しいのは走行していて理解しているつもりだが、寝る時には「満天の星」であったのに……。

 

今に上がるだろうと思ったほか、まだ暗いので出て行く気にもならず、再度 起きたのは6時半。

しかし、雨が降り止む気配は無く、再び寝て3度目に起きたのは2時間後の8時半。

 

この時には、テントを通して入って来る水滴、言うなれば雨漏りで中はグショグショである。

テント、グラウンドシートはもちろん、バッグ、寝袋など殆どの物がズブ濡れで、テントの中には所々に水溜りが出来ている状態のため、下手に動けない。

 

運よく食べ物を入れたバッグだけは助かり、「先ずは腹ごしらえをしてから」と言うと聞こえは良いが、実際には余りの状態に呆然として何をしたら良いか分からず。

取りあえず食べ物を口に入れる事にする。

 

ロスまで行けばモーテルがあるだろうと、ズブ濡れの服の上に合羽を着、荷物をまとめて出発したのは9時半。

 

ロスに着いたは良いが、ホテルが2軒あるだけでモーテルは無し。

ホテルじゃ身の回りの物しか干せず、モーテルを探して先へ急ぐ。

 

小さい上り下りが続く森の中、大粒の激しい雨が情け容赦なしに降る。

 

少しの休憩も惜しく、頭の中には「ただ走る事と、モーテルまたは その看板がないか」、そして「雨が止んでくれるか、せめて小降りになってくれないか」だけしかない。

 

結局、ロスから約50kmの所にあるハリハリ(Harihari)でモーテルに入る事が出来た。

 

ハリハリの手前 約2kmの所でモーテルの看板を見つけた時の嬉しさは、俺だけにしか分からないだろうし、こんな経験は俺のサイクリングに於いて初めてだ。

 

ベランダと部屋の中は勿論、トイレやシャワー室の中まで干し物だらけ。

寝袋、テント、グラウンドシート、バッグとその中身は言うまでもなく、自転車と俺が身に付けているもの以外は全て干し物と言った感じで、干し物が無いのは俺のベッド上だけ。

 

ちなみに、このモーテルはツインの部屋で一泊4$。

このモーテルが今回のサイクリングに於いて、ユースホステル以外で初めて料金を支払って泊まる所となった。

 

隣に店があったので一段落したあと行き、今日と明日の食べ物を買いに行く。

今日はイブ、明日はクリスマスと言う事もあって8$余りと ちょっと贅沢をする。

 

久々にアイスクリームを食べる。

1リットル55¢で、安い上に美味い。

本当に美味いので嬉しくなってしまうが、1リットルとは物凄い量で これだけで腹一杯。

いかに好物でも、度を過ぎると きついものだ。

 

今はベッドの上でこれを書いているが、ベランダに出て見ると……。

外には色とりどりの電球を身にまとい、樹頭に十字架をおいて美しく着飾った木がクリスマスを祝っているかの様に見える。

 

今日は物凄い雨のため、写真は1枚も写せず。

※「モーテル」について、当時の日本で認識されていたものとは全く別物で、自動車で

 移動する人(旅行者を含)のためのホテル。

※「1リットルとは物凄い量」について、彼は日本で「1リットル入りのアイスクリー

 ム」など見た事が無く、好物でもあり価格も安いため、これぐらいなら大した量でも

 ないだろうと購入するも、いざ食べて見ると大変だったようだ。

 ちなみに、彼は「部屋に冷蔵庫が無かった事もあり、食べきらざるを得なかった」と   

 私に話した。

※「色とりどりの電球を身にまとい……」については、大木の両端の二筋に樹頭から木

 の枝に沿って普通の色とりどりの電球が下げられ点灯していたもので、現在の日本で

 言われるイルミネーションとは全く別物の単純なもの。

 しかし、彼と私は実際の木で点灯しているのを初めて目にした事もあり、暗い中での 

 光は本当にきれいだった。

※彼は「写真が一枚も無いのは淋しい」として、翌々日の26日に写した写真をつけま

 した。

 ファタロア川(Whataroa River)に架かるファタロア橋(Whataroa Bridge)のあるファタ

 ロア(Whataroa)は、ハリハリから約25km進んだ所。

ファタロア川に架かるファタロア橋から見るサザンアルプス(1975.12.26)